白飯

好きな物100

二三枝俊「フライング・ソフトクリーム」

見たレビュアーの言うとおり、ストーリー展開やら魅力的なキャラクター、さわやかな読後感とか諸々で一番面白いと思った。もう一つの候補は読んでないけど。

泥棒に入った家で、あれやこれのドタバタのうちに共犯を裏切って、その家の子供と逃げ出した主人公が、事態に決着をつけるまで。

事態がどうしようもなくなるまで、有効な手も打てなくて、考えることも放棄してしまって、ゆるゆると、何かが起こるまで流されていく、またそんな自分の姿の認識もしている主人公の心情が凄くよくわかった。

事態が悪化していく様は、火口を岸壁についたレールに乗ってゆるゆると螺旋状に落ちていくイメージだ。レールの所々に上に向かう切り替えポイントが存在してるんだけど、切り替える労力を払うより、レールの上は楽ちんで、ゆるゆるしているうちに逃してしまう。最後にはマグマに落下するのはわかっているのに。

主人公の心情だけでなくて、子供や元恋人との会話や出来事、共犯者の残虐で予測不可能なゴンジイへの恐怖と何故か笑ってしまう奇妙な親愛なんかまで、想像することができた。丁寧に読むことが出来た気がする。

状況は暗く、笑えないものだけども、上へ向かおうという意思と行動があれば、レールを切り替えて一つ上のレールに登れるんじゃないかと、何百回でもそのチャンスはあるんだと、爽やかに少しだけ上向きな読後感を覚えた。なんか青春小説っぽい。