白飯

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バニラスパイダー/

バニラスパイダー(1) (講談社コミックス)

バニラスパイダー(1) (講談社コミックス)

いつからか町の空にはクモの巣のようなものが浮かんでいるけれど、町の住人はもうそれを気にしなくなっている。でも実は寄生型異星人による侵略は進んでいて、そいつらは人知れず人間を食べているという町で、主人公は、存在感が無さ過ぎてイケてない生活を送る気の弱い高校生だが、その存在感が無さ過ぎて異星人にも気づかれ難い特性をまた別の異星人(謎)に、認められ、蛇口の剣(杖?)という趣味的な武器を渡されて、そいつで異星人をぶしゃーと両断したり、蛇口の逆側を異星人に突っ込んで蛇口から体液をドバドバ出したりして殺していって、好きな女の子をストーカーしたりするけど、守ったりする話。
可愛らしい絵柄とは裏腹に、人間の腰のあたりがぐいんと上下に伸びて大きく膨らんでそこに大きな口と眼が現れて人間をパクつく異星人の描写は結構グロい。
だが、面白い。
設定や造形でセンスを発揮しつつ、少年成長物語の王道をおさえたつくりは、とても素晴らしい。
仏ゾーンやらユンボル、アストラルエンジンのような漫画力を感じた。


主人公は気が弱いけど悪いやつではなさそうな感じをだしつつ、ナチュラルにヒロインのストーカーだったりする。
寄生獣やらセカイ系の印象束縛が根強くある為に、ありがちな印象を抱いてしまうのは否めない。けれど、インターネットの書き物を喜ぶようなボンクラにとっては、ありがち、でも大好き!な代物になっていると思う。
実際の中身は、真っ当に少年の成長過程(承認欲求満足、力を手に入れて慢心⇒自己嫌悪、殺しの罪悪感、友情、覚醒)やボーイミーツガールを描いていて、読み手を置いてけぼりということもないし、趣味的なセンスと物語のバランスはとてもいいように思えた。
ただ短い話数で真っ当な少年物語の手順を踏んで、上に挙げたような設定を消化していくこというのは急ぎすぎのような気がしていた。一巻を読んだ時点で月刊誌のペースだからかなーと思ったけれど、2巻の急展開を読んで「まさか…」と検索してみるとWikipediaで全三巻の文字がおどっていた。
打ち切りか……こんなに面白いのに。

2巻を買うとき、用心の為に、ちょっと大きめの本屋に行ったんだけど、それでも1巻と2巻はそれぞれ一冊づつしかなくて、しかも2巻は別の場所にささっていた。主人公共々存在感が無い。同じ別マガでも進撃の巨人は平積みしてた。
進撃の巨人は確かに面白いけど、そんな差は無いんじゃないのか。本屋は売り上げ中心だから仕方ないとしても、漫画を批評したり取り上げたりする人達は、ひとつの漫画ばっかりとりあげるんじゃないよ能がねえなと無責任に思った。
1巻を読み終えて「面白い漫画が出てきたなー」と思ったけど、巻末の広告みると2010年12月 3巻発売!ってなってて、もう2巻も出てたのかと驚いた。全く知らなかったのは僕だ。1巻だって、たまたま行った本屋が表紙を見せるようにして置いてたからで、実際は皆知っていたのかもしれない。

三巻では全ての謎は消化できてないけど、一応大団円で物語は終わっている。終わった物語を作り直すというのは作者的には嫌からも知れないけど、ファンからすればもう一度「本当にやるはずだったバニラスパイダー」を見たいと思ってしまう。
何より三巻の作者コメントがかなしい。本になって見てもらえるのがうれしいとか、ファンレター三つもらって嬉しいとか、謙虚に喜びと感謝を述べてるわけですよ。でも「商業的に失敗した」とか「ダメなのかなあ」という残念さが伺えるコメントも書かずにはいられない辛さが感じられる。「ボク『は』好きですけどね!バニラ!」というささやかな主張。
僕も好きですよ!って言いたくなった。みんな読んで盛り上がればいい。



バニラスパイダー(3) <完> (講談社コミックス)

バニラスパイダー(3) <完> (講談社コミックス)