さむわんへるつ
初読したときの感想は、読みやすくてまとまっているし、誰も傷つかないし、嫌な気持ちにならないし、決めるべきところで決める「令和のスタンダード」をしっかり押さえた漫画、というようなものだ。ただ、面白かったけれど、正直、強烈に面白くて最高の漫画だ!とまでは思えなかった。
というのは以下のようなところが気になったからだ。
- 水尾くらげさんの思わせぶりな発言の意図が見えない。思わせぶりラブコメとしたら、思わせぶりな言動をとる方の透ける恋心だったり、思わせぶりな言動に翻弄される方の感情の揺れなんかが描かれそうであはるが、それが最小限に抑えられている気がしたからだ。ミメイ君はある程度ドギマギするものの尾を引かないし……。また、くらげさんのキャラクターもつかみにくい。くらげさんは、不思議ちゃんでも天然でもなく、ミメイ君を公園に呼び出す手管など、自身の言動をコントロールしているタイプである。だからこそ、なぜ、あのタイミングで自分がうなぎポテトであるとミメイ君に告げたのか? 思わせぶりな発言を繰り返すのか? マンガとしては読みやすくて、ストーリーは淀みなく進んでいくのに、そういった疑問がぽつぽつと取り残されていく。
- 日常生活で細かくボケ続けるくらげさんのボケが弱く感じる。これは完全な自分の主観である。それが気になるのはタイミングの問題かと思っている。振りのコマ→ボケのコマ→突っ込みのコマの流れだと遅すぎると思ってしまう。大ゴマをつかってジャブを打たれている感覚。その弱さなら全部一コマでやってほしい。さらに主観ですらなく自分が悪いのだが、ラジオだけにボケにある程度のリテラシーが必要なネタがあり、完全にわからないものから、知ってるけど慣れ親しんでないとかで、本来脳内で瞬時に展開されるべきものが遅れてしまう。ただ、おそらく作者は一般向けにレベルを下げているような気もするので、それすら難しい自分はダメダメだなと自己嫌悪にもなる。もちろん、すべてのネタで笑える必要はなくて、そこから醸成される雰囲気を楽しみばいい気がする。だが、上述した疑問が邪魔をするのか入り込むのを阻害される気がする。仮にくらげさんが、ギャグマンガ日和レベルのギャグをずっと言っていたとすると漫画の雰囲気が壊れてしまうけど。
と、まあこのようなことは再読して大きく変わった。書いてあることをそのまま読む、ということを思ったより自分ができてなかったんだなと反省した……。
まず謎だった水尾くらげさんと思わせぶりラブコメの仕組みについてはかなりわかった(気になった)。くらげさんは、かなり素直に自分の気持ちを言っていたのだと思う。1巻のラストのセリフの通りだった。くらげさんは自分より面白い人じゃないと好きにならない。もしかしたら、まだ恋愛的な好きをよくわからないのかもしれない。でも、それがミメイ君だったらいいなと思って、割と真剣にそれを考えている。それが1巻の状況なんじゃないか。思わせぶりな発言も、ミメイ君に対する謎の信頼があるから正直な気持ちを言っているだけで、軽い冗談へのスイッチでいけると思っている。実際、ミメイ君はびっくりするけど引きずらないし、勝手に思い込んで、何かすることはない。ミメイ君は決して間違えない男。くらげさんは、ミメイ君に恋しているわけではないから、付き合ってるの?好きなの?という質問にも真顔で返せる。
そのミメイ君が付き合っているの?という質問をしたから、恋愛の概念の接近を感じて、くらげさんは気持ちを正直に話そうと思ったのだろうと思う。自分より面白い人が好き(好きになる?)なことを言うために、うなぎポテトであることを伝える必要があったんだな。
ミメイ君は全科全能で、決して間違えない男。令和の快原則を体現する存在なんだけど、その大人しい優しいキャラクターだが、負けず嫌いという設定がある。要するにええかっこしいでもある。努力を人に見せたくないから、渾身の一作しかメールを送れなかったのだが、プライドを捨てたところに一皮むけた感がある。それがちゃんと認められるところにカタルシスがあるし、それもきちんと「一体今までどこに隠れていたのか。俺はプライド捨てて頑張れる奴が好きなんだ。」と説明されている。個人的には、最初の「一体今までどこに隠れていたのか」に愛があり好き。後の文は言わなくてもいいような気がするが、ある方がわかりやすい。鬼滅の刃のヒット理由で散々書き尽くされているわかりやすさを求めた結果なのかも。書いていても曲解するこんな世の中じゃポイズンも必要ということなのだろう(?)
妄想か当たり前かどうかもわからないが、こういうことを考えながら読んで、それで一貫性があるような気がするのは、作品が作りこまれているからだと思う。作者は初連載だけど、すごく練りこまれた漫画だなと感じた。
今後の展開だが、最終的に二人でラジオをやることになるんじゃないかなーと思った。二話から掛け合いの息の合い方をじっくり積み重ねている印象があった。くらげさんは恋人ではなくてラジオの相方としてミメイ君を選んだ、というのも恋人よりしっくりくる。これは絶対告白だ!の流れで、ラジオの相方やって、ということになるのではないか。ラジオじゃなくてもポッドキャストとか似たようなことはできそうだけど、学校を絡めるなら放送部(放送委員?)みたいな部活動になるのかもしれない。そうなると、単発ゲストなども出しやすくなって、もう少し長い連載もあるのじゃないかと思った。
最後に、各話の好きなところを書いておこう。
- 1話:「一体今までどこに隠れていたのか」。読まれた後のくらげさんのにやけた波線。
- 2話:全て突っ込んでくれるミメイくん嬉しいなの顔
- 3話:つかまってる1ページ。
- 4話:なっちさん。
- 5話:本当に/超えられちゃったり/するのかな/そしたらわたし/どうなるんだろう/短歌である。
- 6話:左手は添えるだけではなくて両手
- 7話:「そうだ、何考えているかわからないけど水尾さんは優しいんだ」のミメイ君の顔。斜め下に「何だ、病人はいなかったのか」のくらげさん。向かい合う二人を正面から同時に見れるという漫画ならではの情報圧縮。
キングダム
春秋戦国時代の中国で、筋トレ、イメトレ繰り返し、目指すは天下の大将軍。突如起こった国の内乱、悲しいことも乗り越えて、奴隷の少年、大暴れ。
山の民がやられる度に心が痛んだ。こんなところで、こんなやばそうな戦士が散るとは…。彼らはヴァルハラにいけるのだろうか? 山の民のビジュアルはけっこうマンガに忠実に具現化しているような気もするが、もっとヤバイ雰囲気があったら良かったかもしれない。こいつら絶対ヤバイ。喰われる……?もっとひどいヤツになる……? みたいな感じ。が、そこは力を入れるところではなさそう。
大沢たかおの王騎はどうなんだろう。オネエ言葉で、たらこ唇で、眉が太くて、筋肉ムキムキで、かつカリスマ、「大将軍」概念の北極星的存在という異色キャラで、ものすごく難しかったろうな。Amazonのコメントだと結構受け入れられていた。ただ個人的に綾瀬はるかが「先生!急患が!」って飛び込めば、仁先生にスムーズに戻れそうな危うさ(個人的な印象の問題)があった。要するにコント的なのか。じゃあ、誰ならよかったのか。渡辺謙とかかな。トウは良かった。副官っぽさが合っている。ただ目の焦点不明の不気味さはさすがに難しい。荒川良々ような感じだがそれだと有能な感じが難しい。マンガの実写化は難しいな。
戦闘シーンは、楽しいのだが、我流の剣術なのにキレイな動きするとなんか変な感じ。もっと力任せとかでもいいが、原作はどうだったんだろう。
最後の戦いでは、一人に任せて大丈夫なの??と思っていたが、一人の暴力が戦局を変えるような世界観だったので、それでよかったのだった。
総じて楽しかった。アニメの第三期が見たくなった。
ペンギン・ハイウェイ
ある日、町にペンギンが現れ、小学生の少し普通より賢いアオヤマ君はペンギンと、そしてお姉さんの謎を解くために研究を開始する。
原作が好きで映画の出来も期待できて、見れば楽しいに決まってるのに見れないやつ。なんか特別なときに見たいとか思ってしまうやつ。そして特別なときは訪れない。本当に見たいのはもっとジャンクな奴だったり。
しかし、何かしらの勢いに任せて見た。うむ。よかった。
おねえさんのおっぱいを何かしらちゃんと書こうという真面目な意思が伝わる。本当にちゃんと書いてしまったら大変なことになるが大変なことにならないくらいの感じで、しかしちゃんとボリューム感を伝えようという想いがあった。森見さんがおっぱいおっぱい言っていたとしても、それは実際に触る気のないおっぱいというか、非実在のおっぱいというか、夢?みたいなものであるので、ほっといたらいいのにと思うが、あれもこれも素晴らしかったと思います。
アオヤマ君は出木杉君の変異種のように思えるけれど、出木杉君より洗練されて、適度な人間らしさを加味されていて、生きやすい気もする。本作のお姉さんにかかわらず、たくさんのお姉さんに愛されることだろう。
彼らが本気で編むときは
母親が蒸発し(N回目)、叔父のところにしばらく身を寄せることになった小学生のトモ(女の子)は、叔父が同棲するトランスジェンダーの彼女から思いがけず自分の子供のように愛される。
もうひとりのTS?の男の子が自殺未遂して病院に忍び込んだ後の主人公のセリフが自殺しようとした友人にセリフではなくひやひやするが、そのあとに続く「あんたのママは、たまに間違う」というセリフが鮮やかで、別の意味でクールで、素晴らしかった。母親に理解されない自分、母親の望む子供になれない自分に引き裂かれていた彼(彼女)が、どうか救われていればよい。また、このセリフは、既に映画のクライマックスにおけるトモの決断に結びついている。彼女が気づいてはいなかったかもしれないが、このときすでに気持ちは決まっていたのだ。
人生は幸不幸のまだらもようで、人は矛盾に満ちている。偏見はなくならず、悲しみや悔しさは時間を超えて残るだろう。ただ彼(彼女)らが手編みの男根を作り上げるまでのような幸福な時間もまたなくならず、また形を変えて訪れるのだろう。そういうふうに信じて、自分が生きる場所で生きていく、というようなことを思った。
どうしようもなく腹がたったときは編み物をするのだとリンコさんは言っていた。せめて幸福な時間が多いように、祈っているようにもみえた。
南極料理人
第38次南極地域観測隊のメンバーとして南極大陸のドームふじ基地にやってきた8人のおっさんたちの一年。ペンギンもアザラシもいない閉ざされた中で主人公の西村は毎日料理を作る。
日常と非日常、おっさんと少年が入り混じった、どこかコミカルで一触即発でどんよりで明るい雰囲気は、確かに南極のマイナス54度の1分740円の電話のある閉鎖空間によるものなのだろう。普通のようでいて、半ば狂いつつも、理性を保つ。ごはんがそれを助けている。
この空気感が独特で、冒頭の吹雪の中逃げ出した隊員を連れ戻すような事件は最後まで起こらない。淡々とした日常がただ続いていくのに興味はぜんぜん失わない。そして少しずつ変化は蓄積されていく、それにはそこにいる本人たちも気づいていないかもしれない。劇的じゃなくても変質は常に起きている。そういうものだろう。そして、それは日本に帰ってきてからも気づかず、主人公は、帰ってきて食べた動物園の高そうなハンバーガーで気づくのだ。
この素晴らしい塩梅。こういう時間を提供できる創作ってすげーなと本当に思う。ありがたや。
キルラキル

キルラキル Blu-ray Disc BOX(完全生産限定版)
- 発売日: 2019/06/26
- メディア: Blu-ray
喋る服を着て戦う。よく半裸になる。
同じように評判の良い天元突破グレンラガンを見てなかったので面白そうだが半裸の少女とか家で見づらいので見てなかったが家族が実家に帰っていた際に視聴。もっと早く見ておけばよかった。
外連味たっぷり、パロディ・オマージュをふんだんに取り入れて、怒涛の展開とスピード感で最後まで駆け抜けていった。終わってみれば、整合性はあるようなないような、黄長瀬紬の髪の色とか姉さんの話とか別の世界線の設定もあったような気もするが、心地よく乗せられておけばよい。インタビューなどを見ても、最初から最後まで計算づくのものではないだろうと思うけれど、怒涛の展開・スピード感を演出するには相当のセンスと技術がいるだろうと思う。荒いストーリーのようで丁寧にポイントを作り続ける必要がある。視聴者の快感原則や記憶というものを適度に刺激する。声優さんもキャラによく合っていると思う。演技力も高かったんだろう。
ヒロイン二人の黒・白という衣装は、1stプリキュアを感じさせる。毎回挟まれる一回裸になる変身シーンも魔法少女系のそれだ。また後半、何かと満艦飾マコを気遣う蟇郡苛のシーンを挟み、視聴者の妄想をはぐくみつつ、ファンイベントでは脚本家の中島かずきがあっさり切り捨てるといったところは計算づくのものを感じる。個人的には、後半、神衣を互いに交換して闘うシーンが、ガンダムWでヒイロとゼクスが互いにガンダムエピオンとガンダムWゼロに乗って戦ったのを思い出させてうれしくなった。当時、主人公が主人公専用機以外で戦うというのが新鮮だった。オマージュやパロディというのは冷凍保存している記憶を刺激し、快感を思い出させてくれる。
百円の恋
32歳無職で実家の弁当屋を手伝いもせず出戻りの妹の子供を156回以上も大人げなくゲームでボコボコにする斎藤市子は妹とつかみ合いの喧嘩の末に家を出てアパートを借り近所の百円ショップで働き始める。なんとなく気になる崖っぷちのボクサー、長時間労働でうつ病の百円ショップ店長、おしゃクズアラフィフフリーター、ストレスで神経過敏のエリアマネージャー、廃棄品を盗んでいく電波系ホームレス?ばあさんなどと出会い、一子は百円ショップの仕事を覚え、ひどい目にあい、ボクサーとの恋愛の果てに、ボクシングにのめりこんでいく。
それまで、不器用で不気味だった動きは、ボクサーのそれになり、シャドーのパンチは空を切り、実際に精神がいかれたマネージャーをワンツーで突き放す安藤サクラの動きはめちゃめちゃかっこいい。めちゃくちゃ強そう!プロテストも1回で合格し、クライマックスの試合まで突き進んでいく…。
冒頭から閉塞感半端ない。どこか行き詰って負け続け疲れ果てているさなかの登場人物たち。それでも毎日は続いていき、生きていくために進んでいかねばならない。そして、それぞれにとって決定的な終わりが訪れて、それでもまだ続いていくのだ。なんて恐ろしいんだ。もうやめてくれ。
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