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「モダンタイムス」伊坂幸太郎

モダンタイムス 特別版 (Morning NOVELS)

モダンタイムス 特別版 (Morning NOVELS)

この分厚さで、二段組み…!図書館で借りたが、次の予約は言ってるから延滞もできないし、読めないかも…と思ってたら、直ぐに読めた。実家で読書くらいしか面白いことなかったとは言え、気になって一気に読めた。花沢健吾の挿絵も、表紙だけかと思ったら、結構たくさんあってお得な感じがした。連載してたんだな。連載で、小説の挿絵、抽象的な絵もあったけど、描写と合ってない部分とかでてくるし、大変そうだなあと思った。魅力的だけどおっかない主人公の奥さんとか、花沢健吾の絵がしっくりきてた。ボーイズ・オン・ザ・ランを彷彿とさせるたとえ話があったり遊びもあったし、良かったように思う。ただ挿絵が、部分的に先にオチを見せてしまっている部分が2カ所くらいあった。編集どうにかならんかったんか。

(以下ネタバレ含む)

チャップリンが言及されるまで、あの「モダンタイムス」から題名がとられてるのに気づかなかった。あと、不意に犬養とか安藤潤也とか出てきて、それから「魔王」の続編だとも気づいた。「魔王」は読んだけど、その間に何かなかったか、そのあたりが言及されてたら嫌だなと思ってたけど、単品でも楽しめる感じで良かった。サンデーで連載してた魔王の絵柄の安藤潤也と、花沢健吾の安藤潤也が、年の差では埋まらないだろう壁があって違和感あった。


人の営みには、どうしょうもない大きな流れというものがあって、人は皆その流れの中にあって、その中では、誰もが個々の役割を持っているだけで、全てが等しく意味がない。現実の日本の政治とか、詳しく知っているわけではないけど、ややこしいしがらみや思惑、にっちもさっちもいかない現状によって、誰が首相になっても変わらないのだなという淀んだ印象をうける。そういう仕組みを意識してしまうと、個々の責任を曖昧にしてしまう。それは、意味のない怒りを霧散させるのはいいかもしれない。でも、作中でも言ってたけど、その果てにあるのは虚無だな。
じゃあ、どうするか、というと、この本で選択したのは、とりあえず大きな仕組みはわかった上で近場で殴れるヤツは殴ろう、ということと、近くにいる大事な人だけは守ろう。結局、やれることしか人間やれないし、やれることだってやれないこともある。結局、至極当たり前のことに落ち着くのか。まだ続編で描いていくってことなのかなあ。


主人公の奥さんは、亭主の浮気を調査するために、人を雇って亭主を拷問(骨を折る、爪をはがす)するという、規格外の存在であり、過去二度の結婚相手が行方不明、本人は滅法強く、物語でもジョーカー的に使われる謎の存在として描かれ、前半は物語に暴力の風と、謎を植え付けるスパイスになっている。で、実際、主人公は浮気をしており(後で陰謀論も出てくるが、実際に関係も持っているので言い逃れはできまい)、この浮気がばれれば主人公は一体どうなってしまうのか、というドキドキがあったわけだが、後半どんどん主人公が妻の魅力を再確認していき(多分、後半出てくる場面には、奥さんの理不尽さや暴力がなくて、魅力的な部分と頼りになる部分だけしかないからだと思うのだが)、結局浮気もばれずじまいという展開になってしまう。これでいいのか。最後、主人公が指を切断されてHAPPY ENDもないだろうが、なんとなく、主人公に都合が良すぎる印象を強く持ってしまったのが残念。