陽気なギャングが世界を回す
修論の期間中だったが、少しずつ読んで、昨日読了。それくらい読みやすくて面白い。
人の嘘がわかる冷静で策士の市役所勤務のリーダー成瀬、話好きでホラ吹きの喫茶店店主饗野、無類の動物好きの青年久遠、秒単位で正確に時間を刻めるシングルマザー雪子の銀行強盗のお話。
喫茶店で普通に銀行強盗の計画を練るような違和感、計画や実行時の手際の良さ、常に少しふざけたテンポの良い洒落た会話、そしてみんな基本的に善人で、とても気持ちのいい物語だ。安心感がある。前に読んだ「オーデュポンの祈り」とはまた雰囲気が違うような気もしたけど、読み終わってみれば、優しい雰囲気は同じものだったと思えた。
あとリーダーの子供の自閉症の話が出てきてて、それがとてもよかった。障害を持つ人が出てくる話ってのは、障害を持つ人やその周りの人がみたら大概は不快になると思ってた。やたらと聖人のように扱ったり、諦めさせたり、頑張らせたり、あとその展開はそいつの顔が良いからじゃないかとか偽善とか自己満足的なものばっかりだと思ってた。物語に組み込むための部品みたいな扱いが好きでなかった。障害が身近にある世界での苦悩や問題があって、その中での努力や到達した心理とかなら何か届くんじゃないかと思う。ヒーローの物語を読むのは楽しいけど、その正義や力にナットクできる理由がないと感情移入できんのとちゃうかなと思う。
話がずれてしまった。自閉症ってのは僕もよくわかってないけど、脳の障害で物事の理解が遅れて人とコミュニケーションがとりにくい。僕の親族にも自閉症の人間がいる。物語の中で医者は「人間の曖昧な部分が嫌いな性質ですよ」「そして、人よりも物事に敏感なんです」という。この話は特にいやな感じもなくて、ファンタジックではあったけれども、少し救われる気がした。自分自身がしっかり考えてないことだったけれど、こういう小説の形でも救いになるってのは、物語もなかなかいいものだなあと思った。
自閉症の話はおいといて、この小説は是非映画で見てみたい。読んでたときは大誘拐を思い出した。長さ的にも丁度いいと思う。成瀬は役所広司か渡部篤郎で阿部寛もいいかも、饗野は竹中直人か阿部寛か生瀬勝久とか、久遠は岡田准一とか柏原崇とか妻夫木聡もいるな、雪子は蛍の中嶋朋子、永作博美とか、地道は西村雅彦があうかもなあ、とか考えてたら楽しい。読んであとなお楽しい。いい小説。この登場人物は特徴あって思い入れがあるのにたくさん候補が出るってのは、その人物造詣に作者が工夫してるってことだろうか。