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ニットキャップシアター「家屋崩壊」

ニットキャップシアターの精華演劇祭vol3「私達は圧倒的に間違っている」参加作品・どん亀演劇祭V3と題した、どん亀という同じ主人公の演劇3本立て(うち二つは再演)の三つ目。新作にして、どん亀シリーズ最終作。

バイトしながら演劇やってて、貧乏で常にジャージで不器用でメガネで挙動不審で、いつも不幸にさらされるどん亀君の痛々しいコメディシリーズ。前の二つ「喉骨のフルート」「虹のカマドウマ」では痛々しい現実と未来を、ちょとええ話とやっぱり現実は厳しい話で描いており、話は連続していたのだが、今作はパラレルワールドのようになっており、ひたすらにドタバタするコメディで最後には少し希望を与えるという、エンターテイメントに仕上がってた。


あらすじをまとめてみる『どん亀君は所属する劇団の茶柱たつ子に告白するが失敗。茶柱に彼氏がいることが発覚する。劇団には二人新人が入る。一人は掃除用具入れにいた記憶喪失の男。その頃起こった劇団費の盗難事件が起こり、掃除用具入れからは怪しいお爺さんが出てきたりする。盗難事件により劇団代表で作・演出の先輩とどん亀君がいがみ合い、脚本を書いて勝負することに。催眠術を使う女団員が裏で暗躍し、やがて人知れず地震と共にやっぱり掃除用具入れから蛇の被り物した人が出て来て、どん亀君はお爺さんがくれたメガネでできる男になって劇団を掌握するも、お爺さんと蛇の関係が明かされて飽和したカオスはついに崩壊する。そして最後に家屋も崩壊する。崩壊した家屋の中でどん亀君と催眠術を使う女団員が口付けを交わす…』まとまらない…。


いつも痛々しく生々しい現実が入り込む劇団の作風とは違って、「好きな人に振り向いてもらえない」という哀しみはあるものの、諦めることで立ち直れる、また前向いていくしかないというメッセージが感じられる。どん亀君のキャラクターも前二作と連続しているものの、生々しい痛々しさよりも、どこか達観した風な、ダメな部分より良い部分がフューチャーされている感じがした。変な人がいっぱい出てきて皆振り回されてるので、どん亀君もつっこみになってたり、話の途中で神様がくれたメガネをかけて「できる男」になったりしてたのも影響しているだろう。

「家屋崩壊」というタイトルから、これまでいいことなかったどん亀君が最後はどんなに酷いことになるんだろうと思ってたが、結局家屋は崩壊したものの、どん亀君にとっては希望に溢れるラストだった。客は見ている間は散々登場人物の可笑しな不幸を笑って最後は登場人物が幸せになっていい気持ちになって帰るという、エンタテイメントってこういうんだろうなと思った。挿入される笑いは、マニアックなものから分かりやすいものまで、シュールなのもベタなのも間をおかずに配置されて、客が置いていかれるのを防いでいた気がする。キャラクターの相関関係が結構あって伏線として回収されていく度に、それまでのギャグとしての行動に意味が生まれるという楽しさもあった。作・演出のごまのはえの力を見た気がした。でも割と都合の良いエンタテイメントは、劇団の作風としては少し異なる印象はある。あえてこの作品がどん亀シリーズの最後になってるのも、一つのメッセージなのかなと思った。

先に見に行った友人が「新喜劇」と評したように、会話のテキストで笑わせるというよりは、動きやつっこみで笑わせる部分が多かったように思う。その友人は自分が笑ってないところで笑われるのは興醒めして楽しめなかったらしい。たしかにその通りで、特に隣の客は慎重に選ぶべきだなと思った。今回は最初に入り込めばそれも気にならなく、とても楽しい時間であった。久しぶりに最後まで疲れることもなく、終わった後に何だか分からないエネルギーにあふれる演劇であった。


やたら長文を書き散らしたけど、寝起きで書いたのと、観た後に感想や思いが薄れる気がして速攻で帰ったくらい良かったということを免罪符として付け加えておく。速攻で帰ったのに寝たのかよ、と言われれば、大阪から京都ってやっぱり結構遠いよなあと答えておく。