白飯

好きな物100

真夜中の訪問者<擬人化バージョン>

僕が玄関で靴を履いていると、スッと足元が暗くなり、見上げると、黒いコートの男が音も無く部屋に入ってきた。
「な・・なんだ、あんた」
「・・・」
男は何もいわず、靴を履いたまま部屋に上がりこんだ。

男は部屋の隅に座り込んだままだ。何も喋らない。僕は、最初は、出て行けというようなことを言っていたが、彼の風貌、そして全体が出す雰囲気から、それが危険だということを全身で理解した。ヤツは僕を殺すことが出来る。

武器は、木刀がある。だが、それを拾い尚且つ打ち込めることが出来るか、いや一撃で仕留められなければならない。ヤツはプロだ。躊躇いはしないだろう。

どれくらい時間が過ぎただろうか。突然、ヤツが動いた。窓の方に移動し、外を見、またどっかりと腰を下ろす。僕は、あわてて身をすくませたが、それ以上の動きは無かった。

僕は意を決した。いや、もう限界だったと言えよう。僕は前にバイトをしていた店でくすねた銃を取り出した。古い、モデルガンだ。しかし、威力は高い。本当に使うことになるとは思わなかった。
「出て行かないと、う、撃ちますよ!」
男は、ピクリとも動かない。
パン!パン!パン!
乾いた音が下宿の壁に打ち込まれる。
頭のすぐ上の着弾にも男は動かない。僕はヘタリと座り込んだ。

ヤツは動かない。こちらを舐めているのか。それとも、もう動けないのか・・?確証は持てない。しかし、もうこんな状況は耐えられない。僕は銃を捨て、木刀を手に取った。ヤツは動かない。
「ヤァー!!!!!!!!」
男が動いた。瞬時に僕の一撃を避ける。そして、視界から消える。気配も、何もかもが。
背筋が凍る。見失った。
そして再び背後に気配を感じる。殺られる・・!
しかし、その一瞬はなかなかこなかった。ゆっくりと振り向くと男は、僕がさっきまで座っていた場所に倒れていた。顔には脂汗が光っている。
「・・・・・」
僕は、ゆっくりと、男の後ろに立ち、脇から手を伸ばして男を引きずるように持ち上げた。今、男が動き出せばやられるだろう。しかし、男は動かなかった。男を、外に引きずり出すと、窓を閉じ、ドアを閉めた。そして、電話をとり110番をダイヤルする。
男は、気付いて逃げるかもしれない。それならそれでいい。男は、もしかしたら、朝になったらいなくなっていたかもしれない。それまで何もしなかったかもしれない。しかし、僕は彼を信用することが出来なかった。自分の身を守るために、彼が死んだとしても、心は痛まない。