白飯

好きな物100

真夜中の訪問者

昨日の夜。ご飯を食べに出かける際、ドアを開けて座って靴を履いていると、スズメバチがスッと部屋に入ってきた。久しぶりのスズメバチに大いに狼狽しながらも、とりあえず外に出た。帰ってからのことは考えないようにして。

帰ってきてから、作戦を開始した。ヤツは追い出さねばならない。何もしなければ刺さないかもしれないが、寝てる間に何が起こるかわからない。以前、ズボンの中にハチが入っていて、知らずに穿いて刺されたという経験がある。

ヤツは、壁に止まったまま動かない。体を休めているように見える。最初の作戦では、真っ暗にして、ライトで窓付近を照らし、そちらに向かわせるということだ。しかし、こいつは動かない。畜生。

ヤツを仕留めるか。しかし、部屋には確実にヤツを仕留められる武器は存在しない。万が一、ヤツが生きていた場合、さされることになってしまう。まだ何もしていないハチを殺すことに躊躇いがあるのも確かだ。

部屋の電気を消したまま、テレビを見る。ヤツのいるのが、窓と反対側の壁であり、窓、ドアどちらからも遠く、動く気配もない。持久戦を覚悟した。やがて、とつぜんヤツが動いた。焦って身を低くする。ヤツは、僕の上を通り、窓の横の壁に引っ付いた。事態は好転。あと少し。

しかし、そこで膠着状態に陥ってしまった。動く気配は無い。部屋は真っ暗にし、窓を開け、ドアも開ける。後はライトで導いて、外に出すだけだ。飛び立ちさえすれば。しかし、ハチは動かない。弱っているようにも見える。

どうしたら動くのか。すこし大胆になっていた僕は、輪ゴムでハチ、もしくはその近くを狙うことにした。前のバイトでパクッた輪ゴムがたくさんあった。もし当たったとしても、殆ど動かずにいれば、僕は敵として認識されないのではないか、という考えの下だ。昆虫をバカにした考え方だが、ハチの目に僕はどう映っているのだろう。

輪ゴムではやはり当たらない。そこで、直接ものをあてることにした。PSのメモリーカードの箱、プラスチックの入れ物。直接当てれば、しとめられるかもしれないが、確実ではない。周辺に当て、空中に誘き出す!

しかし、ハチは直ぐ近くに着弾し、羽根が震えても動かない。動けないのか。この方法では、追い出せない。しかたなく、断念した。

次はもうやけくそに近い。うちわで扇いで落とす作戦だ。これは、さすがにつかまっているのが難しいようで、よこから風を受けると体の位置を変える。しかし、風力が足りず、落とすには至らなかった。しかし、風力が有効であることは証明されたので、人力でなく、機械兵器を用いることにした。ドライヤーの登場である。

恐るべくは温風であろうか。ハチもついに、その場にとどまることが出来ず、壁を這って場所を変える。いける、勝利を予感した瞬間、ヤツが飛んだ!思わず、身を低くする。しかし、ヤツが飛んでいったのは、逆方向で、棚の方であった。そこには今はダンボールが積まれている。しまった、ライトでそこを照らしたが、ハチの姿は見られなかった。絶好の機会を逃し、あまつさえ姿を見失った。これでは打つ手がない。

部屋の電灯をつけ、周囲を注意深く調べた、ドライヤーの温風を隙間に浴びせた。しかしハチの姿はない。負けか、そう思って下を見たとき、先程、下に置いたうちわの上にハチを見つけた。何も知らず、座っていたらという寒さと、絶好の機会という興奮が体を駆け抜ける。

慎重に、クッションで壁を作りながら、うちわの柄の方を持つ。ゆっくりと、持ち上げる。そのまま窓の外へ、うちわを水平に保って持って行き、逆さにする。ハチがいないことを確認し、窓を閉じ、ドアを閉める。ミッション終了。一時間に渡る作戦はここに終了した。