白飯

好きな物100

「ノクターンだった猫」ニットキャップシアター

コーヒー、パンケーキ、甘くないシュガー、雨降りの窓、ヘッドホン、携帯電話。
深夜のレストランを舞台に、他人と他人が朝を待つ。でも、この夏一番のファンタジー

http://knitcap.jp/28th/index.html


HPの「作品について」の文章を引用したけど、見終わって全然そんな感じなかったな。でも、久々に演劇を見た気がするし、面白かった。


お話は喫茶店で原稿を書いている作家(ごまのはえ?)から、作家の書く話(絵本?)の中の話になり、そのあとプロポーズを了承され結婚の決まったごまのはえが、2009年に本当に起った『別れさせ屋』の男が、別れさせるために近づいた女を殺した事件の取材をするという話に続く。合間に、イカをさばく独身女や、観音様の導きを信じて世界を救う旅をする兄弟(ナイトヘッド)などのコントが入る。

確かに新しい感じはあった。なんだろうか、確固としたストーリーはなくて、よくわかんないんだけど、なんだか感じる所や考えるところもあり、途中挟まれる下世話なコントはほんとうに笑えたし(ナイトヘッドと観音様のようなシュールかつベタな感じは相変わらずすばらしい)、場面場面で最低限のストーリーラインとその中で魅力的に喋って動く役者さんの魅力みたいな力ものもあって、フワフワとストレス無しに見れた感じ。


僕が、この演劇で感じたのは「嘘と本当」についてだ。
今回、代表であり脚本・演出のごまのはえがパンフレットで結婚を報告し、さらに劇中に登場するごまのはえが結婚を語るのだけど、それが楽屋落ちではなくて、「嘘と真実」の一つの表現になっている。
結局、見終わって帰るときには、ごまさんは、本当に結婚するのか(したのか)と疑問が残ってしまった。
そういう作中のいろいろな仕掛け(冒頭で作者が演出っぽいことをする、役者の実名がでてくる、実話っぽいエピソードがでてくる、嘘まみれの『別れさえ屋』)があるけれど、嘘と本当のキーワードに思ったのが「愛してる」という言葉。

「愛してる」という言葉を言いたくない男は結構いるんじゃないだろうか。道具としてなら言えるけれど、本当の気持ちを言いたいとき、定義の不明な愛しているを男は使いたくない、と勝手に一般化して思ってる。僕はそうだった。女性からするとそういう話ではないのだけれど、考えすぎると言えない。彼女の事は好きだとは言える。でもそれは本当に愛しているということなのか?とか。青い。
虚構の中の「愛している」が安心して聞けるのは、虚構の中では、彼らは愛し合っていることが真実だからだ。ある意味で、真実は虚構でしか書けない。

しかし、現実には「愛してる」と言わなければいけないし、考えなければと思う状況があって、その一つが結婚だ。この芝居は、自分の本当のところでもって、「愛してる」と言うことになったときの男の葛藤を描いているのだと思った。
終盤、井上陽水の「傘がない」をBGMに、男達が「愛してる!」と叫びながら暴れ回るシーンの、迫力あるけれど、どこか虚ろで滑稽な思いがこみあげてくる。観音兄弟の「地球が泣いている!」とかの叫びが一緒に入っているのも面白い。


なんだかそう言うことを考えたり、単純に面白い!とか役者さんスゴイ!とか、思ってたら時間が来た感じだった。見に来て良かった。元気になった。
思えば、10年前に最初に見たときも、すごいエネルギーをもらったと思ったのだった。劇場の1コーナーで、EXPO Knit Cap Theaterとして、過去作品のチラシや写真が展示されていて、チラシの最初が僕が初めて見た「おっぱいブルース」で、なんだか懐かしいし嬉しかった。あのときのメンバーはほとんど入れ替えになってしまったけど、ニットキャップシアターは続いている。すごいことだ。

というわけで、大阪の難波にアクセスできる人は見に行けばいいと思う。
でも、彼女とか彼女に準ずる人を一緒に連れて行くのは、やっぱり避けた方がよいな。そわそわして集中できない可能性がある。僕は学んだので一人で行った。一人で行って良かったと思った。