おおきく振りかぶって 14
- 作者: ひぐちアサ
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2010/04/23
- メディア: コミック
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この、こころをキレイに動かされた感じはきっと、バントで塁を埋められたり、まっすぐで打ちとられたような感覚なんだろう。
(ネタバレします。ネタバレ非推奨!)
最初にそう思ったのは、9回表のスリーランホームランで、6点差がついたとき。呆然とするナインと同様に、ああ、終わったと思った。勝って欲しかったという感情移入が、気持ちに空白をつくる。空白のまま読んでいくと、三橋のコントロールに乱れが出て、エラーも出て……悲しい気持ちになってきたとき、三橋が復活し、それに呼応してみんなの気持ちが戻った。そして、読み手の僕の気持ちも、前向きに戻っていた。やられた。
あと、最後の9回裏の最後の打席。ページをめくるのを躊躇した。一コマ一コマしっかり見る。それでもまだ期待と不安が入り交じって、終了。
ページをめくるのを躊躇するという体験は、ありふれてることなんだろうけど、それでもやはり特別な、すばらしい物語体験だった。
物語は、多様化し、量が増えていっても、逆説的に、物語のパターンが抽出されて、その法則が蓄積されることで、物語の形はいくつかに収束されてしまう。新しい物語の新鮮さや感動が薄れていく。物語法則における展開予測や、もっと鋭い人なら作者の意図まで読み取ってしまうからだ。
勝負を描く物語において、勝つか負けるかわからないことによる興奮や感動は大切なものなはずなのに、物語法則によって、勝敗が予測されてしまう場合が多い。「勝たねばならない戦い」であれば、物語としても「勝たねばならない」。だから「はじめの一歩」において、一歩以外の試合は面白い。試合内容や表現が面白いのはもちろんだが、たゆたう勝敗の予測がめまぐるしく変わるのが楽しいのだろう。
今回、それを感じられたのはとても幸運だった。漫画のおもしろさもそうだし、僕がこれを読んだときの知識や状態も関係してるんだろうな。気に入った漫画は手放すつもりはないけれど、多分もう二度とあじわえないんだろうなあ。