白飯

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凍りのくじら

凍りのくじら (講談社文庫)

凍りのくじら (講談社文庫)

この作者の人の「子供たちは夜と遊ぶ」という本が本屋に平積みされてて気になっていたけど初見で上下巻の本を買うのに抵抗があったのでやめた経緯と、ドラえもんの秘密道具が章の名前になってて、さらに主人公とお父さんが藤子F不二雄先生を尊敬してるというところに惹かれて購入。
主人公の女子高生は、ドラえもんが好きで藤子先生を聖人だと思っているところは素晴らしいのだが、頭が良いことを自覚し、周囲の人間を客観的に分析し見下しつつ、表面上はうまくこなしながら、私はここに居るけど居ないとか思っちゃう感じで、とても腹がたつ感じだった。一人称なので、この自意識がずっと続くのはしんどいと思ったが、そんなことなかった。主人公の再生の物語であった。
主人公の自意識に嫌悪感を抱くのは、共感できないところもありつつ、そういう感覚がまったく自分にないかというあるかもしれないからだ。そして、物語中で主人公よりさらに露悪的に描かれる「若尾」という青年。弁護士を目指し絶賛浪人中でプライドが高く、自己中心的で努力はしないが夢をみていて自己愛が強くて甘えているが甘えていると思わない。ああ、僕はうまく伝えられないけど本にはもっとわかりやすく書いてある。最後には精神的にも崩れてしまうのだけど、程度こそあれ、こいつも現代にはウヨウヨしていて自分も例外ではないことを考えると暗澹とした気分になる。そして、物語の軸のひとつである死病に侵された母との生活なども個人的にとてもザワザワする読書であった。
藤子先生は優しくて凄い漫画家で神様みたいにずっと書かれ続けてるので、そこはとても気持ちよかった。参考文献がドラえもんの大長編含む全巻だったのが笑った。未収録作品を収めた+もあわせて欲しかったな。