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「サウンドトラック」古川日出男

サウンドトラック

サウンドトラック

淡々と簡潔に時に観念的に華美に物語的事実が積み上げられる。それは何度も何度も繰り返し執拗に文章を塗り固めるような作業で、何を塗りつぶすかというとそれは現実的日常だ。物語にどっぷり浸かったころには、そこが見知った日常ではなく、物語的非現実であることに気付く。という仕掛け。だと勝手に思った。やられた。ロビンソンクルーソー、ズッコケ山賊修行中を思い出した。


トウタとヒツジコという二人の主人公がおかしくて格好良い。何がおかしいかというと二人とも頭がおかしいのだけど、それだけでなく身体に何か強力な力を内包しているように思われて、こいつらはきっと何か凄い事をする奴らなんだと思ってしまう。主人公のカリスマ性が心地よい。安心できる。


物語は、冒頭で二人が奇跡により無人島に漂着するところから、独自に成長していく様子や、全然別の人物の物語が語られたり、現代東京の状態、変容の様子、二人が何を行なったかが、物語的事実として述べられる。歴史的事実が述べられたり、舞台は最終的に2009年というほぼ現代なのだけど、それらの事実はどこか歪んでいて面白い。そして、それらの事実が全て、何かの最終的事実へのステップのように感じる。何かが最後に待っているのだと感じる。それが楽しい。


読んでいてこれは映画にしたらどうなるだろうと思った。多分、映画では面白くない。何だか奇想天外で、綺麗で、かっこつけたものになると思う。小説だから面白い。脳内に浮かび上がるビジョンはスパっとした切り口なのだけど、そのためにどんだけ言葉を費やしているんだという新しい感覚。いかん、文章が変に影響を受けている。